リニアの着工へ長らく反対していた静岡県だが、
現鈴木知事がリニア着工を容認したそうだ。
とはいえ、懸念の声が上がっているのは、大井川の水量が減るという報告をされたことで、環境への配慮が心配されている。
一応、環境への対応についての資料は出ているが、静岡県民、特に大井川の恩恵に預かっている人たちにとっては問題になるだろう。単に環境問題というだけでなく、倫理問題としても語りうる。すなわち、リニア利用者の利益を考慮するか、それとも大井川水量減少に対する環境保護を考慮するかという二点に分かれる。後者を犠牲にするとして、何らかの保障はあるとは思うのだが、果たしてそれだけで十分なのだろうか。
より深掘りすれば、リニア問題は、水量が減るか減らないかという科学的問題だけではなく、仮に科学的リスクが小さいとしても、「どの程度のリスクなら社会は受け入れるべきか」「誰がそのリスクを負うべきか」という倫理的問いが残る。
環境倫理学の三つの立場
(1) 人間中心主義(Anthropocentrism)
- 自然は人間の利益のために利用される。
- リニアは経済や利便性を高める公共事業である。
- ただし住民への影響は最小限にする責任がある。
この立場では
「十分な補償と環境保全措置があれば事業は正当化されるか」
という問いになる。
(2) 生物中心主義(Biocentrism)
ここでは
南アルプスの生態系そのものに価値がある
という考えになる。静岡県が南アルプスの自然環境保全を強調している点とも関連する。
(3) 生態系中心主義(Ecocentrism)
この立場によると、
問題なのは
- 川
- 地下水
- 森林
- 動植物
を一つのシステムとして考えることである。
県が懸念しているのも、大井川の健全な水循環や生態系への影響だ。
「予防原則(Precautionary Principle)」
環境倫理では
完全な科学的証明がないからといって環境保全を後回しにしてよいのか
という議論がある。
リニア問題も
「影響がないことが証明されるまで待つべきか」
それとも
「影響があることが証明されるまでは工事を進めるべきか」
という問題として整理できるだろう。これは環境政策全般にも通じる重要なテーマになる。
私も環境倫理については勉強不足なのだが、着工時期が2036年ということで気長に考えていきたい問題である。知事も変わってまた反対すれば、さらに着工は伸びるかもしれない。
参考文献(自分用)
- アルド・レオポルド『野生のうたが聞こえる』(土地倫理)
- アルネ・ネス(ディープ・エコロジー)たとえば、“The deep ecological movement; some philosophical aspects” Philosophical Inquiry 8, nos.1-2 (1986) など
- 森岡正博「ディープエコロジー派の環境哲学・環境倫理学の射程」 科学基礎論研究 Vol.21, No.2 (1993) pp.85-90
- ホームズ・ロルストン3世
- ジョン・パスモア『自然に対する人間の責任』
あとこれが役に立ちそう。