研究道中膝栗毛〜メタ倫理学と留学がしたかった日々〜

はじめに

研究生活というのは苦難の道であり、決して平坦ではない。

私も博論に至るまでに紆余曲折あり、博論の段階では正直自分の書いたものに納得はしていない。なので博論を書籍化することは一生ないだろう。なぜなら、私が修士時代からやりたかったことからはかなり逸脱してしまっているからだ。というより、指導教授に書かされたことを博論にしたと言ってもよい。

とはいえ、修士課程3年、浪人期間1年、博士課程6年と計10年にもわたる研究生活の行程を残しておくのは悪くないと思った。後進に同じ轍を踏んでほしくないからだ。今思えば私は色々なことに手を出そうとしすぎた。その割には気移りがしやすく、次次へと立場を変え、結局行き着くところはなかったかもしれない。博論は一応、学位を取るために書いたものでしかなく、思い入れは一つもない。

私は博士課程ではとにかく留学がしたかった。別に本を読むだけならば日本でもできるが、特に私がやりたかった分野は「メタ倫理学(Metaethics)」であった。メタ倫理学をやろうと思って博士課程に進学したが、指導教授はメタ倫理学が嫌いで、「メタ倫理学は悪魔の学問だ」とか「メタ倫理学は学問を腐敗させる」といった言葉を吐くぐらい嫌悪していた。だから、私の所属していたゼミではメタ倫理学は禁忌の学問であり、手を出したら呪われるというぐらいであった。しかし私はそんな悪魔の学問に魅了されており、指導教授やゼミ生の見えないところでこっそりメタ倫理学の書籍を読んでいた。そして、そんなメタ倫理学という学問に身をやつしている海外の先生のところに行きたいと思っていたのである。下記の勉強記は、私がその時々で行きたいと思っていた大学とリンクしている。まあ見ていただこう。

 

1.プリンストン大学

博士課程に進学した段階で最初に留学がピンと来たのは指導教授が「サバティカル中にプリンストンに行くよ」という言葉からだった。とりあえずプリンストン大学の哲学科の教員リストを見たところ、マイケル・スミス(Michael Smith)やジョナサン・ダンシー(Jonathan Dancy)が当時いたみたいで、なんと指導教授はあれほどメタ倫理学を嫌っていたのに、改心してメタ倫理学をやろうと思い始めたのかと早合点してしまった。それが不幸の始まりだったのだろう。とはいえ、その前から修士課程時代に、メタ倫理学やるならこれを読めと言われていたところから話は始まるのでそこから話がしたい。

1.1 マイケル・スミスの動機づけのヒューム主義

修士課程の院試の面接で指導教授からこう言われた。

「これから国際的なヒューム業界でやっていくんやったら

 メタ倫理学やるのは必須や」と。

そういうわけで、大学院に進学したら、即マイケル・スミスを読んだ。

古典を読む手応えとは違って、現代的な文章はなかなか難しいなあと思いながらも、

まあ一応勉強した。そこで読んだスミスの著作とは、今でも読み継がれているらしい『道徳の中心問題』である。

カニシヤ出版さん、『道徳の中心問題』を復刊してくれませんかねえ。

みんな望んでますよ〜。

 

1.2 ジョナサン・ダンシーの道徳的個別主義

さて、次にプリンストンに当時はジョナサン・ダンシーもいた。

どうも当時、倫理学業界では個別主義が流行っていて

大学院の研究室関連のワークショップや講演会でも

たまに道徳的個別主義に関するテーマがあったと記憶している。

そこで読んだのが以下である。

 

 

 

一般主義に対して個別主義か〜、

まあ確かに徳倫理とかケア倫理とかはそういう傾向があるのかな〜、

とか思いながら読んでいた記憶がある。

まあ、今だとどうやらダンシーは直観主義にも入ってくるらしいと

下記のSEPの記事で読んだけど。

plato.stanford.edu

 

とはいえ、オチとしては、

残念ながら元大学の指導教授の滞在先はプリンストン大学ではなく、

プリンストン神学大学(Princeton Theological Seminaryであった。

ptsem.edu

プリンストン大学とはまったく別の独立した機関らしく、パチモンやないか!と思ったが、まあ起源を辿ると同じとかなんとか。よく知らんけど。

ja.wikipedia.org

まあいずれにせよこちらの大学にはメタ倫理学をやっている先生は見当たらなかったのでアメリカ行きは断念した。

 

2.エディンバラ大学

気を取り直して、まあヒュームやってるならエディンバラだろうと、元大学の指導教授もエディンバラでPhD取ってるわけだし何らかしらのツテはあるだろうと期待して調べることにした。そしたら、ジョナサン・ダンシーに対抗して道徳的一般主義とか、あと信念-欲求モデルに通ずるようなハイブリッド表出主義とかなんかそういうのをやってる先生がいらしたので紹介しておく。

2.1 マイケル・リッジの一般主義とハイブリッド表出主義

マイケル・リッジ先生という方が、ハイブリッド表出主義なる立場を唱えていて、まあなんか信念と態度の表出のいいとこ取りをして、するとフレーゲ=ギーチ問題をかわせるとかなんとからしい。一応、佐藤岳詩先生のお書きになられた超売れてる『メタ倫理学入門』でも紹介されている。それともう一つ、先ほど触れたダンシーの個別主義に対して、一般主義なる立場を唱えておられる。読んでみたけどよくわからんかった。翻訳してほしい誰か。

 

なお、マイケル・リッジ先生はチェスがお好きなようで

下記のような動画が上がっている

youtu.be

youtu.be

 

授業計画でキリギリスの哲学を参考文献に入れておられた。

 

3.ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン

一応、交換留学ということだと行き先にUCLも入っていて、ちょうど博士2年次に入ってきた友達がUCL出ているということでロンドンに住むのもなんかカッコいいなあと思ったから調べてみた。

3.1 マイケル・カルデロンの道徳的虚構主義

UCLにはマイケル・カルデロン先生という方がいらして、道徳的虚構主義を取っておられるらしい。虚構主義というのはマッキーの錯誤説(error theory)の延長上にある立場で、道徳的真偽は問えるが道徳的言明はすべて偽であるとして、一応保存するか、全廃するか、みたいな話が出てきているらしい.......という話も佐藤先生の『メタ倫理学入門』に出ておるぞい。

 

とまあこんだけ調べてとりあえず、イギリスに行き先を絞ったのはいいものの、

いざ大学の交換留学の準備をして国際交流課に行ったところ、「交換留学は学部制しかやってない」って言われたので断念せざるを得なかった。しかし、私はそこでゴネてみて指導教授に訴えたところ、課の偉い人と交渉してくれてアメリカなら行ってもいいと言われたので、また調べ直したのである。

 

4.ノースカロライナ州立大学チャペルヒル

アメリカの大学院ということで、目星がついたのがサイモン・ブラックバーン、ジェフリー・セイヤ=マッコードなどがいたノースカロライナ州立大学チャペルヒル校であった。この大学は先に紹介したマイケル・リッジや、今エディンバラにいるマイケル・ギルが出身のようだ。

4.1 サイモン・ブラックバーンの準実在論

まあ大御所ですよ。やはりマッキーの錯誤説の延長にあるけど、存在論的には反実在論でも、意味論的には真偽が問えるという立場。ブラックバーンについては私が語るほどでもない。

 

ただ指導教授に聞いたところ「ブラックバーン先生はもう引退してるよ」って言われたので、さすがに指導を乞うのは無理かーと思って諦めた。

 

4.2 ジェフリー・セイヤ=マッコードの実在論

セイヤ=マッコード先生といえばヒューム研究でも有名だが、スタンフォード哲学百科事典の「メタ倫理学」「道徳実在論」の項目を書いている、いわばメタ倫理学界のラスボスと言っていいだろう(僕の見立てですが)。

plato.stanford.edu

plato.stanford.edu

 

実在論に関する編著も出しておられる。

とまあ色々あったが、アメリカ行きでの予算を聞いてみると、私の貯金ではとてもいける額ではなかった。いくらゴネたとはいえ、学部の留学生と違って、大学院生で個人で行く場合、経費は全部自腹、奨学金は出ない、とのことらしいので、誠に残念なことに留学は諦めざるを得なかったのである。アメリカ高いし。イギリスもだろうけど、、、

 

そういうわけで、そのまま金欠に陥った私はいろんなところで話しているが、博士課程在学中に就職をし、とりあえず金を貯めてから留学を目指すかーと思って、まず所属大学で博論を書いた。博論から解放されて、ようやく留学を目指すために行き先を探すことに集中できるようになったのだ。そして、、、

 

5.やっぱりオックスフォードがいい

もう大学の交換留学も関係ないし行きたいところに行こうということで改めて調べたら、やっぱりオックスフォードがいいな、ってなった。

5.1 デヴィッド・イーノックの強固な実在論

僕の専門柄、どちらかというと実在論寄りなので、この際だからと思ってたら、なんと強固な実在論(robust realism)を取るイーノック先生がオックスフォードに赴任したではないか。これは行かなば、と思って今検討している。

プロフィールはこれ

www.philosophy.ox.ac.uk

 

行くならオックスブリッジだな、とハードルを上げてはいるものの、IELTSの点数がまだまだ足りていない。色々当たってみて英語を教えてくれる人を探している真っ最中です。あとお金も貯めてます。今度、金運が上がる神社にお参りに行ってきます。

 

6.我が国のメタ倫理学の状況

ところで、日本では今、メタ倫理学はどんな感じなんでしょうね。

今のところ出てるのはこんな感じです。

 

自然主義的メタ倫理学

話題にちょくちょく出したメタ倫理学の入門書
最先端のメタ倫理学の専門書

 

反実在論の立場、直観主義が批判されているらしく私は避けて通れない。

そして、ちょうど今、オックスフォードに行きたいと言ったところだが、まさにそんな中で必読書が出たではないか。

 

メタ子ちゃんは公式キャラクターにしていくのかな??

 

7.おわりに

色々あったけど、留学に行くというのは難しい。難なく行ける人もいるけど、やっぱりご縁がなければなかなか行けるもんではないな。それでも、学問は裏切らない。きっと報われる。そう信じて僕は今もがんばってます。

あと、メタ倫理は食えないんじゃないかという懸念を聞いたことがあってとある先輩からそんな話を聞いたのですが、日本でももっとメタ倫理学が盛り上がればいいなと思います。

あ、ちなみに今、スキャンロンのWhat We Owe To Each Otherを読書会で読んでるので、もし気になる人がいたら声かけてもらえればメンバーに聞いてみますので。